とあるウォンバット研究者の数奇な人生

とあるウォンバット研究者の数奇な人生

オーストラリアでウォンバットの病気の研究をするというあまりにも数奇な人生を選んだ日本人のお話。

第五話(前編): ところで動物学ってどんなこと勉強するの?~タスマニア大学での生活~

おげさまで第五話になりましたタスマニア大学動物学シリーズ。

今回のエピソードは。。。

 

激闘!

無人島サバイバル地獄の五泊六日ッ!!(前編)

 

です。

第三話でちょっとだけ書いてみたら反響が大きかったのでちゃんと書きます(笑)

 

ちなみに、これは大学三年生の海洋生態学の授業です。

前編の本記事では、その無人島に向かうまでの道のり、そしてそこで行ったプロジェクトについてお話していきます。

というわけで、第五話ッ!前編ッ!Here We Go!! 

 

  • 謎の無人島へ、いざ出発。

。。。なんつって、本当は全然謎じゃないです。

今回我々探検隊が向かったのはタスマニア島の東にあるタスマン海に浮かぶ小っちゃな島、マライアアイランド国立公園。

無人島とは言えキャンプサイトがあるので、一応シャワーとトイレはあるという情報は得ていました。

キャンプ中は川で行水に森で野グソを覚悟していたので、それを聞いてかなり安堵したのを覚えています。

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The Maria Island Walk https://www.mariaislandwalk.com.au/the-walk/

 

ちなみに某ウィキ〇ディアによると、Maria Islandを「マライア」と呼ぶのはタスマニア民だけで、他の人は普通に「マリア」と呼ぶらしいです。

どうしたタスマニアン(笑)

 

船室もなければ椅子もない船と呼ぶにはあまりにも心許ない船に乗り、約1時間程かけて島へ向かいました。

季節は秋。甲板で浴びる海風に凍えながらも、道中でイルカやオットセイと遭遇し、青白い顔で「ワオ、アメージング」などと言ってみたりしました。

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イルカの大群

 

そして見えてきました。

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これがMaria Islandです。

かすかに見える建造物は19世紀の植民地時代にイギリスから連れてこられた罪人たちによって建てられた物とか言ってような気がしますが、イルカとオットセイのおかげで  、ワタクシお恥ずかしながらテンションMAXだったのであんまり話は聞いてませんでした。

誰かタスマニアの歴史に詳しい人いたら教えてください。(他力本願)

 

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そこら中にウォンバットがいらっしゃいます
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    そもそも何故この無人島に?

海洋生態系学の授業の一環で来たこのフィールドワークの目的。

それは島のある2つの違う場所の生態系を比較し、生息する生物に違いがあるか、そしてあるとすればそれは何故なのかを調べるというプロジェクトのためでした。

こちらがその2つの場所です。

 

場所A:Painted Cliffs

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島の東側に位置する絵の具で塗ったような美しい岩の模様が特徴の海岸です。

リトルペンギンが泳いでました。

 

場所B:Fossil Cliffs

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島の東側に位置する海岸。その名の通り化石がそこら中に転がっています。

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こんな感じ。

 

この二か所に干潮の時間に行き、岩場に生息する生物の種類、数、潮だまりの大きさ、などなどいろんなデータを取りました。

 

データを分析すると、面白いことが分かりました。

生息する生物の「種類の数」:場所A>場所B

生息する生物自体の「数」:場所A<場所B

 

つまり、場所Aは生物の種類は多いけど、それぞれの種類の個体数は少ない。

かたや、場所Bは生物の種類は少ないけど、その生物の個体数は多い。

このような結果になりました。

 

我ら探検隊、非常に困惑。

科学をかじる者として、この謎は解き明かさねばならんのです。

 

調査のために数々の論文を読み進めていくうちにとても興味深い文章を見つけました。

High levels of physical disturbances tend to exclusively reduce the species richness of the habitat. The species diversity will peak at intermediate magnitudes or frequencies of disturbances.

つまり、

「高レベルの物理的障害はそこに生息する生物の種類を減らす。生物の種類数は中レベルの障害の時にピークに達する。」

 

なるほど。。。

これは興味深い。

確かに場所Bは非常に風が強く波も高かった。

それに比べて場所Aは比較的穏やかでした。

どうやらこれは高いレベルの障害はそこに住むすべての生物の死亡率を上昇させ、その厳しい環境に適応することのできる生物にとっては他の生物との生存競争少ない繁栄のしやすい環境になるのです。

逆に低レベルの障害しかない環境では、違う種類の生物間での生存競争が激しくなり強い種類がその場所を占領する形になり、これもまた生物種数の減少かつ小数種の独占状態となるわけです。

という理由で、生物種数は中レベルの障害のある環境でピークに達するのです。

こうして分析したデータを表やグラフにし、レポートにまとめ、そしてクラスに発表するのです。

ちなみに予想に反してレポートは17ページ(約5000語)にもなりまして、当時まだ学部生だった僕は結構ヒィヒィ言いながら書いた気がします。

まぁ修士論文は70ページだったんですけどね。。。(笑)

 

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集めたデータから作った図のひとつ。

説明するとややこしいのでカラフルな絵画を楽しむ気持ちで見てください。

 

仮説を立て、プロジェクトを計画し、実際にフィールドに出てデータを集める。

そのデータを分析するとこうして何かが見えてくるというのは、科学もとい動物学の非常にエキサイティングな一面のひとつだなと強く感じました。

ただ今回のプロジェクトでは、その障害のレベルを数値化することができなかったので結論としては強くないのですが、当時はまだ学部生だったのでこんなものかなと今となっては思っております(笑)

 

はいッ!どうでしたでしょうか!

無人島へ向かう時の僕のワクワク感と、このプロジェクトで得られた非常に興味深いデータ、楽しんでいただけたでしょうか!

第五話後編では、マライアアイランドの絶景とそこでの暮らしぶり、そして珍事件について相変わらずまとまりもなくつらつらとお話していこうかなと思っております。

 

このタスマニア大学動物学シリーズもあと2話ぐらいで一旦区切りかな。

いつも読んでくれてありがとう。

それでは皆さん、第五話後編でお会いしましょう。

 

wombat-suki-life.hatenablog.com