とあるウォンバット研究者の数奇な人生

とあるウォンバット研究者の数奇な人生

オーストラリアでウォンバットの病気の研究をするというあまりにも数奇な人生を選んだ日本人のお話。

僕の仕事はウォンバットを捕まえることではない。ウォンバットを救うことだ。

さて、久しぶりに少し書きたいことができたので、この長期間にわたり圧倒的に放置されていたブログを更新しようと思います。

 

僕は現在、ウォンバットを疥癬という感染症から救うための研究をしています。

 

「もう知ってるよ!」という方、ありがとうございます。

初知りの方は以下のリンク先の記事を確認してもらえると、どんな感じの病気か知ってもらえると思います。

wombat-suki-life.hatenablog.com

 

現在の研究の内容としては、ウォンバットから採取したダニのDNAを調べ、治療薬がダニの体内で働く仕組みや薬への抗体が作られるメカニズムを解明しようというものです。

ダニが抗体を持っていた場合は使用する薬の種類を変えなければその地域のウォンバットを救えない。

ウォンバットたちをこの感染症から救うために非常に大切な研究なのでございます。

 

以前タスマニアでのフィールドワークについての記事を書きました。

そこでは疥癬に感染している野生のウォンバットを捕獲し、ダニのサンプルを採取するという最高にエキサイティングな経験をしました。

毒ヘビや毒グモが盛り沢山の大自然の中、大きな虫取り網でウォンバットを追いかけるその体験は確かに素晴らしいものでした。

 

しかし、その後、何人かの人から「次はいつウォンバットを捕まえに行くの?」「私も行きたい!」などと言われることがありました。

また、関心を持ってくれたメディアの中には「なんとしてもウォンバット捕獲シーンを!」というのもありました。

もちろん、友人にしてもメディアにしても、僕の研究に興味を持ってくれるのは本当に嬉しいし、めちゃくちゃありがたいです。

 

ここで僕が何を言いたいかというと、

「僕の仕事はウォンバットを捕まえることではない。ウォンバットを救うことだ。」

ということです。

 

「捕獲」というのは当然動物たちにとって非常に大きなストレスが掛かります。

体調1.7m程にもなり、道具を使いながら、群れで襲ってくる人間という恐ろしい敵。

ウォンバットたちに僕らはそう映っているかもしれません。

ましてや、疥癬と戦うためにすでに大量のエネルギーを消費しており弱っているウォンバットたちにとって、人間から逃げることは命懸けかもしれません。

 

当然、彼らは僕らが捕獲の末に疥癬の治療薬を投薬しようとしているなんて夢にも思わないのです。

というわけで、僕らとしてはできればウォンバットの捕獲はしたくないのです。

 

僕の持っているダニのサンプルのひとつに「DW01」と名付けられたサンプルがあります。

「DW」というのは、「Dead Wombat」。

つまり、死んだウォンバットから採取されたダニのサンプルなのです。

 

現在持っているダニのサンプルのほとんどは、

・過去に疥癬により死亡した個体から採取されたもの

・重度の疥癬のせいで安楽死させた個体から採取したもの

・保護施設に運ばれてきた感染個体から採取されたもの

・交通事故で死んだ個体から採取されたもの

で、構成されています。

 

そう、ウォンバットにストレス与えず、または最小限のストレスに留めた状態で採取されたサンプルです。

 

疥癬に苦しむウォンバットよりもかわいいウォンバットの映像が注目を集めやすいように、ラボで実験に励む研究者より原っぱでウォンバットを追いかける研究者の方が注目を集めやすいでしょう。

もちろんそれも分かるし、僕もどちらかと言えばフィールドの方が好きです。

しかし実際は、僕らはウォンバットへのストレスをどうにかして最小限に抑えつつ研究を行う方法を日々考えています。

研究のある側面だけがフィーチャーされすぎてしまった結果、本当に大事なことが見逃されてしまうのは少しだけ悲しい気がするのです。

そしてそれって世の中のいろんなことにも言えるよなってそんなふうに思います。

 

とにかく、今僕がウォンバットたちのためにできることは、ラボに籠もり、ダニのDNAを解析する実験をすることなのです!

 

という、とあるウォンバット研究者のボヤキ記事でした。

 

地味な内容でごめん笑

 

でも読んでくれてありがとう。

 

またいつか!