とあるウォンバット研究者の数奇な人生

とあるウォンバット研究者の数奇な人生

オーストラリアでウォンバットの病気の研究をするというあまりにも数奇な人生を選んだ日本人のお話。

一区切り。そしてこれからは。

つい先週、約3年半に渡って行ってきた博士課程研究のファイナルプレゼンテーションが終わりました。

質疑応答も含め約1.5時間にも及んだ大緊張のプレゼンも、指導教員やパネルのみならず多くの友人が応援に駆けつけてくれ、終わってみれば「おめでとう!いいプレゼンだったよ!」と言ってもらえ、成功と言えるものとなったのだと思います。(練習と比べると上手くいかなかったなぁという後悔はあるけど)

友達が撮ってくれたプレゼンの様子。対面・オンライン含め30人ぐらい来てくれました。
緊張した!

ヒゼンダニの薬物標的受容体に焦点を当てた、ウォンバット疥癬の治療の最適化。

 

動物学部を卒業し、ずっとフィールドワーク系の研究に携わってきた僕は、分子生物学の知識なんて皆無の状態でこの研究をスタートさせました。

野生動物の感染症研究において、今まで培ってきたフィールドワークの経験に加え、分子生物学や遺伝学、それに関連するラボワークの経験を積めば、将来的にキャリアの幅が広がるだろうと考えた末の決断でした。

 

研究自体は、書けること、書けないことも含めて、まぁなかなか苦労するものでした。

いくらウォンバット疥癬の知識があっても、分子生物学や薬理学といったものは、自分にとって全く新しい領域。

もちんラボワークなんて、ほとんどやったことありません。

同じ英語でも、全く別の、新しい言語で研究をしているような感覚でした。

 

でも、振り返ってみれば、この3年半の間に4本の論文がパブリッシュされ、博士論文も提出し、ファイナルプレゼンも終え、少しはウォンバットたちを疥癬の苦しみから救うことに貢献できたのかな、と思っています。

 

タスマニア大学での学部・修士課程を含めると、5年以上携わってきたウォンバット疥癬の研究。

爛れて出血した皮膚を激しく掻きむしるウォンバットたちを実際に目の当たりにし、「研究で結果を出したい!」という気持ちより、「ウォンバットを救いたい!」という気持ちをモチベーションにここまでやってきました。

 

でも、僕のウォンバット研究もここで一区切り。

Twitterを通じて、ブログを通じて、そして本を通じて、たくさん応援してくれた皆さん、本当にありがとうございます。

あまり愚痴とかは書かないようにしていたけど、心配してDMしてくれた方もいたりして、本当にありがたかったです。

マジでたくさんの人に支えられました…!

 

とはいえ、僕の研究から得られたものの中で、まだ論文化されていないデータもたくさんあるので、僕のプロジェクトは終わっても、それに関連した論文はまだ世に出ていくはずだし、もちろんこれからもウォンバットの疥癬研究は続いていきます。

疥癬に苦しむウォンバットが少しでも減るように、自分にできることをこれからもコツコツと進めていくつもりです。

 

さて、問題は、「んで、アンタこれから何するん?」というところでございます。

僕の専門分野は、野生動物を苦しめる感染症の研究。

そして特に、ウォンバットというオーストラリアの有袋類を疥癬から救う研究に携わってきました。

 

博士課程修了が近づくにともなって、今年の年明けぐらいから、分野が近い研究者の方や、友人の伝手など使って「なんか仕事ないスカ?」というメールを送っていました。

 

すると、タスマニア大学時代の友人のひとりから、「うちのラボがちょうど人を探しとるかもしれん」という返信がありました。

 

詳しく話を聞くと、その友人と彼のボス(僕がタスマニアで研究していた頃に少しお世話になった人)が、彼らの研究のラボワークとデータ解析のできる人を探しているとのことでした。

 

そして、彼らの対象生物は、タスマニアデビル。

 

伝染性のガン、タスマニアデビル顔面腫瘍病(DFTD)に苦しむ有袋類です。

1996年に初めてこのガンに感染した個体が発見されて以来、2015年までに全個体数の95%がこの病気が原因で姿を消したとされています。

 

簡単なまとめはこちら↓

wombat-suki-life.hatenablog.com

 

半年間という本ポジションの短い契約期間が少しネックになりましたが、キャンパスのあるタスマニア州都のホバートが自分にとって慣れ親しんだ街であること、そこにはたくさんの友達やホストファミリーがいること、そしてもう長年知っている人たちと一緒に働けることを考慮し、行くことに決めました。

 

このポジションの後はどうなるか、そのことに関して話し合いや研究費の申請などを行なってきてはいるものの、今のところはまだ何も決まっていません。

不安定すぎて笑います。

 

でも、博士課程を始めるにあたり考えていた、

「野生動物の感染症研究において、今まで培ってきたフィールドワークの経験に加え、分子生物学や遺伝学、それに関連するラボワークの経験を積めば、将来的にキャリアの幅が広がるだろう」

という発想は、間違っていなかったのかもなと、今なら思えます。

まずは、不安定ながらも、やっとプロとして一歩を踏み出せること、そしてこれからも感染症に苦しむ野生動物の研究に貢献できることに喜びを噛み締めながら、目の前のことを真面目に愚直に全力で頑張っていけたらなと思っています。

 

南極からの風で凍える真冬のタスマニアが待っている。

 

読んでくれてありがとう。そして、いつも応援してくれてありがとうございます。

Twitterのアカウント名とアイコンどうしようかな…。笑