とあるウォンバット研究者の数奇な人生

とあるウォンバット研究者の数奇な人生

オーストラリアでウォンバットの病気の研究をするというあまりにも数奇な人生を選んだ日本人のお話。

タスマニアデビルがオーストラリア本土に復帰!その背景とは!?

タスマニアデビルをオーストラリアの本土の野生環境へ復帰させようという「再導入作戦」が先日インターネットでチラッと話題になっていました。

本記事では僕の動物学の知識を総動員してそのタスマニアデビル本土再導入作戦を分かりやすくビシッと解説していきます!

 

ん?「何だい?その物騒な名前の動物は」だって?

 

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ご存知ないのなら説明いたしましょう!(知ってる人はさすがです)

タスマニアデビルというのは、オーストラリアはタスマニア島に生息する肉食の有袋類。

大きさは、まぁだいたいパピヨンぐらいですね。

しかし可愛らしいサイズ感に反して動物界でもトップクラスのアゴの強さを持ち、巨大なワラビーやカンガルーの骨までも砕いてしまいます。

とはいえ、基本的には死体を食べて暮らしているので「森の掃除屋さん」とも呼ばれており、バランスのとれた生態系を維持するのにとても重要な役割を果たしております。

あんまり狩りは得意ではありません。目も悪いし、足も遅いし。

性格は獰猛ってよく書かれてますが、実際は結構シャイ。

鼻がとてつもなく効くので(2㎞先の匂いを嗅ぎつけるほど)、人間がいるのが分かるとあっという間に逃げてしまいます。

掃除屋さんでありつつ、恥ずかしがり屋さんでもあるんですねぇ。

 

そんなデビルちゃんたちですが、オーストラリア本土の野生環境へ復帰させようという話は何年も前からあり、この度まさにその第一歩が踏み出されたというわけでございます。

 

というわけで、タイトルは、

タスマニアデビルをオーストラリア本土に再導入!その真実とは!?

 

目次

1.   昔は本土にも住んでました。タスマニアデビルです。

2.タスマニアデビルを襲う更なる試練!

3.タスマニアデビルの本土再導入!その目的とは?

4.満を持してオーストラリア本土へ!しかし問題点も、、、

5.タスマニアデビル、オーストラリア本土再導入の真実。

 

 1.昔は本土にも住んでました。タスマニアデビルです。

現在はタスマニア島のみに生息する彼らですが、化石などから3000年ほど前まではオーストラリア本土にもいらっしゃったことが分かっています。

タスマニア島は約1万2000年前まで本土と陸続きだったので、当時から住んでいた生き物たちは本土と島を自由に行き来できたんですねぇ。

 

本土での絶滅の原因は諸説ありますが、

―気候変動

―人間からの狩猟

―人間が持ち込んだイヌ(ディンゴ)との生存競争

などが考えられています。

このように本土での絶滅を経て、ディンゴのいない孤島、タスマニア島のみで生き延びたというわけでございます。

 

2.タスマニアデビルを襲う更なる試練!

本土での数々の試練の末、なんとかタスマニア島でよろしくやっていたデビルたちですが、新たなそして巨大な試練を彼らが襲ったのです。

 

デビル顔面腫瘍性疾患 (DFTD)

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http://tsof.infobaselearning.com/tsofprintarticle.aspx?ID=18959&citation=mla


タスマニアデビルに発生する伝染性のガン。

主に繁殖期に見られる「かみつき」による傷口から感染し、口や目の周りを腫瘍に覆われ採食が困難になり、死に至る。

個体密度の高い個体群ではガンが発生してから12~18か月以内にすべての個体が死ぬと考えられています。

1996年に初めてこのガンに感染した個体が発見されて以来、2015年までに全個体数の95%がこの病気が原因で姿を消したとされています。

しかし近年は、健康個体を保護し飼育下で繁殖させたり、無人島へ移入したり、ガンのワクチンを開発したりと、非常に熱心な保護活動により、個体数は少しずつではあるもの回復傾向にあるようです。

 

3.タスマニアデビルの本土再導入!その目的とは?

現在タスマニア島でのみ生息しているタスマニアデビル。

このタスマニアデビル本土再導入作戦により期待される効果は主に2つ!

1.「保険」としてのガンに感染していない健康な個体群の確立

デビルたちのガンによる絶滅を防ぐために、多くの施設や団体が健康な個体を飼育し繁殖させ、「保険」の個体数を増やしています。

それと同時に大事なのが、「デビルたちの野生本来での行動を維持する」ことなのです。

縄張り内で、他の個体や種などと競争しながら生きていくことは飼育下では学ぶことができません。

なるべく野生に近い環境でエサの見つけ方や危険回避の方法などを学びつつ、他の個体群に移しても生き抜いていける保険個体を育てることはとても大切なのです。

2. オーストラリアの小型哺乳類を守るため

「いやいや、デビルちゃんは肉食でしょ?小型哺乳類は食べられちゃうんじゃないの?」

って思いますよね?

実は、バンディクートビルビーなどの小型哺乳類の最大の敵は、タスマニアデビルではなく、、、

ネコなんです。

 

オーストラリアでは外飼いネコや野良ネコの野生動物の被害が甚大で、一匹のネコが一年に殺す動物の数は740にもなると言われており、毎年20億匹ものオーストラリア在来種がネコによって殺されていると研究によって判明しました。

しかし、面白いことにネコはタスマニアデビルがいることを極端に嫌うことが分かっています。

タスマニアデビルが生息する地域では、ネコは夜行性であるデビルと出会わないように夕方などに狩りをするようになり、狩りの成功率が制限されるんです。

タスマニアデビルがネコを狩ることはないのにも関わらずです。

研究結果によると、タスマニアデビルの個体数がネコより多い地域では、小型哺乳類の個体数が多い傾向があるそうです。

デビルちゃんすげぇ!

 

というわけで、この2つの効果を期待してデビルちゃんたちをオーストラリア本土に再導入しようと相成ったわけでございます。

 

4.満を持してオーストラリア本土へ!しかし問題点も、、、

「ではではデビルちゃん!本土でもネコに負けずに元気でね!バイビー!」

とはならないのです。

果たしてデビルちゃんたちはいきなり本土の野生環境へ放たれて期待された通り本土でもネコをビビらせ貴重な小型哺乳類たちを救えるのでしょうか?

何かの間違いでその小型哺乳類たちを食べちゃったりしないのでしょうか?

これがね、分からないんです。

「恐らくこうなるだろう」という目測は立てられているものの、3000年の時を超えてオーストラリア本土の地へ降り立ったタスマニアデビルたち。

彼らが現地の生態系へどんな影響を与えるか、それは科学者にもデビル本人たちにとっても未知なのです。

例えば2012年にタスマニアデビルをタスマニアのマライアアイランドへ同じ目的で導入した際は、現地のある海鳥の個体数を激減させてしまったということが起きました。

生態系というのはそれぐらいめちゃくちゃデリケートなバランスでできているのです。

 

このような再導入による予想外の悪影響はなんとしても防がねばならんのです。

 

5.タスマニアデビルのオーストラリア本土再導入の真実。

今回タスマニアデビルたちが導入されたバーリントン野生生物保護区。

しかしデビルたちが放たれたのはネコやキツネなどの外来種または危険な植物が一切取り除かれ、柵で囲われたとーーっても大きなケージ。

これはさっき言ったように、3000年振りに本土へ帰ってきたデビルたちの現地生態系への影響が未知数だからなのです。

なのでまずは、タスマニアの森とは違うこの本土の環境で彼らがどのように適応していきどんな生活をするか、それをこの「半野生の環境」で見守っていきましょうやと。

つまり、「タスマニアデビル本土再導入作戦の第一歩」となったのが今回の事象の真相だったのです。

その土地にいなかった生物を新たに導入させること、これは一歩間違えれば生態系全体を破壊しかねない、非常に慎重なステップの求められるものなのでございます。

 

 

いがかでしたでしょうか!

タスマニアデビル本土再導入作戦の背景や目的なんとなく分かっていただけたでしょうか。

今回の「半野生環境」への放流は、この作戦の記念すべき第一歩にあたる出来事だったのです。

次のステップとして、ワラビーやフクロネコなどデビルと共に生態系を構成する生物をその大きなケージの中に入れていき、どのように共存していくかを確かめることになります。

そしてこの作戦の最終目的は実際の野生環境へ彼らを放ち、ガン対策のための個体数増加と野良ネコの生態系への影響の減少、この2つを実現していくことなのです。

 

長くなっちゃったにも関わらず最後まで読んでくれてありがとう!

 

では、また次回、お会いしましょう。