元ウォンバットパラダイスこと某国立公園を6年振りに訪れてみた
真夏のタスマニアからあけましておめでとうございます。
元旦には多くの飲食店が閉まるこの街では、基本的に家族や友人とゆっくりする以外の選択肢がほぼ存在せず、郷に入っては郷に従えということで僕も家でダラダラと過ごしておりました。
しかしその夜、「今夜オーロラが出るかも?」という情報をネットで見かけ、「まぁどうせ見えんだろうけど一応外出てみるかー」と軽い気持ちでできるだけ光害の少ない場所を目指して出かけました。
浜辺に到着し夜空を見上げると、恐怖すら感じるほどの巨大なカーテンが、緑、白、赤、の不気味なグラデーションを揺らがせながら僕らの頭上に覆いかぶさっていました。

そんな新年。
今年はいい年になるよって、新たな一年に歓迎されているみたいだなって思うことにしました。
今年も相変わらず序盤から話が逸れています。
そんな僕はクリスマス休暇を利用し、キャンピングカーをレンタルし、約一週間のタスマニアでのロードトリップに出かけました。
本記事では、その最初の目的地であったタスマニア北部に位置するナラウンタプ国立公園での話をしようと思います。
というのもそこで報告しておきたい発見があったので!
きっとこのブログを長く読んでくれている人はご存知だと思いますが、この国立公園はかつて「ウォンバットパラダイス」と呼ばれるほど多くのウォンバットが生息していました。
しかし、疥癬の流行によりその個体数は激減。
2019年頃には個体群絶滅という悲惨な結末を迎え、ウォンバットはその土地から姿を消しました。
また、ここは学部生だった僕が2016年当時に初めてウォンバット研究に携わり、そこから2018年ごろまでフィールドワークを行った場所でもあります。
wombat-suki-life.hatenablog.com
天気は快晴、州都ホバートからは約3時間のドライブです。
途中Oatlandsという小さな村のカフェに立ち寄り、昼食を摂りました。
僕が注文したのはハルーミチーズとグリル野菜のベジタリアンサンドイッチ。
ハルーミチーズは、キュキュッとした食感が特徴の焼いても溶けない不思議なチーズ。
表面を軽く焦がした厚切りのハルーミチーズの塩味とカボチャやナスなどの焼き野菜の甘み、それに加えマヨネーズソースの優しい酸味。
パンもふわふわで最高でした。
あまりに美味しくてロードトリップ最終日ホバートへ帰ってくる際もわざわざ遠回りしてこのカフェへ寄ったぐらいです。

タスマニアの魅力ポイントのひとつがどんなに小さな村にも素敵なカフェやベーカリーが必ずあり、どこも美味しいコーヒーとごはんを出しているところ。
このカフェがそのひとつだったのです。
そこからはひたすら広大な放牧地が広がる景色の中のハイウェイドライブ。
放牧されている牛や羊たちを眺めながら、オーストラリア国内のみならず日本を含めた海外の食卓や経済を支える彼らに思いを馳せたり、土地が放牧地や農地として開墾される前に広がっていたであろう森林を想像したりしました。

道中にキャンプでの食材の買い出しなどをして、国立公園に到着したのは午後6時近くでした。
しかしここは真夏のタスマニア。
日没は午後9時ごろ。10時近くまでは完全に暗くなりません。
到着した時も体感午後3時という感じでした。
気温は20℃を少し下回るぐらい。
オーストラリア本土とタスマニア島を隔てるバスストレイトの海から流れ来る風が美しい平原を揺らしています。
その平原にできた水たまりは澄んだ青空を反射しています。



そこで静かに草をはむ、オレンジ色の太陽に照らされた野生動物たち。
Forester Kangarooは本土に生息するオオカンガルー(Eastern Grey Kangaroo)のタスマニア亜種です。
そのまわりには彼らより二回りほど小さいBennett’s Wallaby。
こちらは本土のRed-necked Wallaby のタスマニア亜種。
そして大きな群れをなして一緒に食事をしているのがTasmanian Pademelon。
このように一万年以上本土から隔離されているタスマニア島には、多くの固有種が生息しています。
ただでさえ観光客の少ないこの国立公園。
人間の影響が非常に限定的なこの環境で、野生動物たちがこうしてのびのびと彼ららしく生きている姿がめちゃくちゃ感動的です。
ここの動物たちは、人間が少し近づくとこちらを警戒し逃げようとするものがほとんどです。
写真を撮るのは難しくなってしまうけど、それだけ彼らは人馴れしておらず、人間を敵とみなしている。でもそれがいい、そう思ってしまいます。
彼らから少し離れた場所で、彼らと同じ風を受けながらぼーっと立っている。しばらくそうしていると彼らもこちらを気にせず食事を再開します。
それが楽しい。それぐらい本当に素敵なところです。
夜には空を覆いつくす星の下、夕食に焼き鮭と味噌汁を食べました。
急に日本(笑)
翌日は朝から少し散策します。
国立公園北部に広がる巨大なビーチBakers Beachや、水辺に生息する野鳥たちを観察するために建てられた小屋Bird Hideで大自然を堪能しました。


そしてそのあとは、キャンプ地から西側の草原に足を運びました。
そここそが8年前に僕がフィールドワークで訪れたまさにその場所です。
深夜に月明りと懐中電灯の光を頼りに動物たちの足音に怯えながら歩いたあのときのままです。
当時はウォンバットの巣穴がそこら中に空いていて、足元を照らしながらでないと危険だったのを覚えています。
地面をよく見ると、巣穴の跡のような窪みが点在していることに気付きました。
長い間誰にも使われず、雨風と土砂により埋められた巣穴の入り口を見て少し悲しい気持ちになりました。

100mほど先にカンガルーの群れがおり、こちらを警戒しています。
地面には彼らのものと思われるフンが踏みつけずに歩くのが不可能なぐらいたくさん落ちています。

ん?
あれ、このフンなんか四角くね?
カンガルーのフンにしてはデカいよね?
おぉ?よく見たら結構落ちてる。
しかも新しそう!


四角いフンをするオーストラリアの動物。
そう、ウォンバットしかいません。
なんと、2024年のタスマニア政府による調査の結果、個体数はまだ少ないものの、ウォンバットがここナラウンタプに生息していることが判明しました。
帰ってきているのです!
2019年頃の個体群絶滅から5年の時を超え、帰ってきたのです。(伝わる?この興奮)
実はウォンバットの個体数自体はタスマニアでは増加傾向にあることが分かっています。
とはいえ、ナラウンタプは農地に囲まれ、他のウォンバット生息地からは比較的隔離された場所。
ここにたどり着いた個体は、長い距離を移動してきた可能性があります。
また、カンガルーを含めた草食動物たちはウォンバットが好む柔らかい草の新芽や栄養価の高い植物を食べる傾向があります。
つまりそれは、食べ物や生息地をめぐっての競争を意味します。
実際に、ナラウンタプでウォンバットが減少したのと同時にカンガルーの個体数が増加したと報告している論文もあります。
よって、ウォンバットたちがここで定着し、他の個体群と同じように増加していくかは現時点では分かりません。
しかし、彼らが今ここにいるのは紛れもない事実であり、健康で元気なウォンバットたちがさらに増え、この土地が再びウォンバットパラダイスと呼ばれる日が来ることを願わずにはいられなかったのです。
というわけで、ナラウンタプ国立公園にウォンバットが戻ってきていることを報告したかった、というブログでした。
日本のウォンバットファンの方たちの中にはウォンバットパラダイスだった当時のナラウンタプを訪れたことのある方もいると存じています。
なので、これは報告しなくては!と筆を執った次第でございます。
以上、長々と書いてしまいましたが、ナラウンタプ国立公園とウォンバットの帰還報告の会でした。
ご拝読ありがとうございました。
ではでは、また。