第六話: ところで動物学ってどんなこと勉強するの?~タスマニア大学での生活~
おかげさまでワタクシのタスマニア大学動物学シリーズも第六話です。
予定では次回でこの連載は一旦終了する予定ですので、皆さんもう少しお付き合い宜しくお願い致します。
本記事のテーマはズバリ!
ウォンバット研究との出会い!
激闘!深夜のジャングルでの伝説のフィールドワーク!
です。
今回もタイトルが荒々しいなぁ(笑)
それでは、第六話ッ!Here We Go!!
1.ウォンバット研究との出会い。そのいきさつとは?
僕がウォンバット研究に出会ったのは学部3年の時でした。
日本の大学では恐らくほとんどの人が研究室に入ると思うのですが、オーストラリアの大学はたぶんそのようなシステムはありません。
なので、卒業論文なんてものとは無縁のまま学部を卒業していく人もめちゃくちゃ多いと思います。
タスマニア大学動物学科では、選択教科のひとつとしてリサーチプロジェクトというものがあり、それを選ぶと研究室に入ってその研究プロジェクトを元にした卒論を書くということになります。
そしてこれが僕とウォンバット研究との出会いとなったわけです。
といっても、正直なところ僕は元々ウォンバットが大好きだったわけでも、ウォンバット研究が何としてでもしたかったわけでもなく、、
試験嫌い。
↓
試験勉強したくない。
↓
試験勉強しなくていい方法はないか、
↓
リサーチプロジェクトがあるじゃないか!
という非常に邪(よこしま)な思考でなんとなーくスコット・カーバーに、
「いい感じのプロジェクトないですかねぇ」
って相談しに行ったのを覚えています。
でも、こうしてその後数年間のウォンバットを研究した結果、今はウォンバット保護への愛情も情熱もしっかり持っています。(笑)
これがこの先の僕の進路に大きく影響する決断になったのでした。
2.はじめてのウォンバット研究。
「ちょうどいいプロジェクトがあるよ!ウォンバットの巣穴についてなんだけど。」
そうスコットに言われた時にはもう僕の心は決まっていました。
昔からあんまり深く考えないタイプです。
プロジェクト概要としては、ウォンバットの巣穴の中と外の温度変化を調べ、それを季節ごとに比較していくというもの。今もう夏と冬のデータはあるから、秋のデータを取ってきてくれんかと、ということでした。
一応タイトルは
Investigation of the thermal environment of the bare-nosed wombat (Vombatus ursinus) by examining seasonal temperature gradients of inside and outside the burrows.
です。
「なるほど。おもしろそうだ。ぜひやらせていただきたい。」←特に何も考えてない。
即決でした。
フィールドワークの場所はお馴染み。
Narawntapu National Park
タスマニアの北部に位置する美しい国立公園です。
ここで、指定されたウォンバットの巣穴の中と外の温度を一時間ごとに24時間記録し、他の季節とのデータと比較します。
巣穴というウォンバットにとって大事な役割を果たす物の機能を知ることは、彼らの生態を理解する上でとても大切な情報になるのです。
3.またしても圧倒的な大自然!フィールドワーク遂に始まる!
周りに何もない圧倒的な大自然の中のキャンプも、動物学専攻も3年目の僕たちにとっては慣れたモンでした。
シャワールームにバカデカいクモがで現れようが、テント内でサソリとコンニチワしようが、キャッキャっとはしゃいでいました。
慣れとは恐ろしいものです。
さて、本プロジェクトのミソである24時間のウォンバットの巣穴の温度のデータを取るために、15人ほどのボランティア(という名目で集まった友達)に協力してもらいました。
ここで二泊三日、二人一組のシフト制で公園内に点在するウォンバットの巣穴を訪れます。
僕のペアは昼12時、午後8時、そして朝4時の担当になりました。
どこまでも続く圧倒的大自然。
永遠に広がる平原と深い森をGPSを頼りに目的のウォンバットの巣穴へとカンガルーの群れをかき分けて向かいます。
道中で、疥癬(かいせん)に感染したウォンバットを多く見かけました。
この病気に感染すると毛が抜け、むき出しになった皮膚はただれ、非常に痛々しい見た目になります。
ここナラウンタプ国立公園ではウォンバットの間で疥癬のアウトブレイク(突発的発生)が起こり、過去10年で個体群の95%の減少が報告されていました。
2016年当時国立公園内で確認された10頭のウォンバットにも疥癬の症状が見られました。
このウォンバットの病気について詳しくはこちらをどうぞ。
wombat-suki-life.hatenablog.com
疥癬の恐ろしさを目の当たりにして、とってもげんなりしていた僕ですが、人生嫌なことばかりではありません。
フィールドワークで巣穴の温度計測をしようとしていると、
ひょっこり。
あらァ~♡可愛いィ~♡
巣穴からウォンバットの親子が顔を出してきたではありませんか!
いやもう可愛すぎます。
可愛すぎて心がとっても「ポワッ♡」となりました。
キャンプ地に帰って早速この写真とエピソードを友達に話すと、みんな同様に「ポワッ♡」となっていました。
このフィールドワークで一番印象に残っているのが朝4時の温度計測でした。
外灯もない真夜中の国立公園。
明かりといえば自らの頭につけた懐中電灯と夜空に浮かぶ天の川のみです。
昼間通った草原とジャングルですが、さすがに闇が深すぎてバチクソにビビってました。
しかもそこら中に動物の気配がするんですよ。
ちょっと懐中電灯を向けると、50匹いや100匹以上のワラビーたちがその目を光らせながら草原へブワーッと散っていくのです。
それと同時に僕の鳥肌もブワーッと立ちます。
あれは本当に一生忘れられないものすごい光景でした。。。
こうして僕らはワラビーの大群やタスマニアデビルのうめき声に戦々恐々としながら、データを集めたのでした。
4.調査結果!
さぁ、本プロジェクトではウォンバットの巣穴の中と外の温度の24時間の変化を冬、夏、秋で比べてみました。
すごいですねぇ~、外の地面の温度が灼熱の60℃になろうと、極寒の氷点下になろうと、ウォンバットの巣穴の中はだいたい10~20℃の快適ラクラク空間に保たれていたのです!
ウォンバットは非常に代謝が低く、体温調節が苦手な生き物です。
そんな彼らにとって巣穴はとっても大切な役割を果たし、うまく穴を掘ることのできない個体は野生では生きていけないのです。
また、ウォンバットの巣穴は長いものでは全長20m近くにもなり、僕らの家と同じように寝室、トイレ、台所、リビングなどなど用途に合わせたお部屋があります。
なので、灼熱地獄の日や、極寒吹雪地獄の日は、巣の中に蓄えた草でも食べながらむにゃむにゃしてればいいのです。
以上が僕が行ったウォンバットの巣穴の研究でございました!
どうでしょうか!
フィールドワークのある研究って大変だけど、毎回いろいろな発見があってマジで学ぶことが尽きないんですよ。
研究の雰囲気が少しでも伝わったかな。
この記事が野生動物の研究に興味のある人たちにとって「はえ~、面白そうだねェ~」って思ってもらえるような物であったら幸いです。
おかげさまで第六話まで続きましたタスマニア大学動物学シリーズ。
次回で最終回です。
今日はナラウンタプ国立公園の美しい写真と共にお別れです。
では皆さん、最終回でお会いしましょう。